亜鉛は、味覚障害、サプリメント、低栄養、創傷治癒などの文脈で頻繁に話題に上がります。
しかし、みなさんは「そもそも亜鉛とは何か。どんな特徴を持った物質で、なぜ不足すると困るのか」を説明できますか。
前回の亜鉛記事では、味覚障害、低栄養、銅欠乏、嚥下支援の場面で亜鉛をどう見るかを整理しました。今回はその前段階として、「そもそも亜鉛とは何か」を見ていきます。

亜鉛は、医療や栄養の世界だけに出てくる特別な物質ではありません。金属材料としても、日用品の成分としても、工業製品の中でも広く使われています。
そんな広く使われている亜鉛が、人体にとってなぜ大事なのか。体の中ではどのように使われているのか。この記事では、亜鉛を「味覚のサプリ」ではなく、元素・栄養素・生化学の入り口として簡単に整理します。
亜鉛は何か
亜鉛は、元素記号Zn、原子番号30の金属元素です。英語では zinc と書きます。常温では固体の金属で、純粋な金属としては青みを帯びた銀白色をしています。

身近な用途でいうと、亜鉛は鉄をさびにくくする「亜鉛めっき」に使われます。トタンや建材、自動車部品などで使われる考え方です。銅と混ぜると真鍮になり、楽器や金具にも使われます。乾電池、ゴム、塗料、化粧品、皮膚に使う酸化亜鉛など、亜鉛を含む材料や化合物はかなり広い範囲にあります。

理科の周期表で見ると、亜鉛は金属元素の一つです。一方、栄養学では鉄、銅、セレン、ヨウ素などと同じように「微量ミネラル」として扱われます。
「微量」といっても、重要度が低いという意味ではありません。必要量は少ないけれど、ないと身体の機能が保てない栄養素、という意味です。米国NIH(National Institutes of Health:国立衛生研究所)の資料では、体内の亜鉛量は女性で約1.5g、男性で約2.5g程度とされ、その多くは骨格筋や骨に存在します[2]。
ビタミンのようにエネルギーを直接生むわけではなく、脂肪のように大量に貯蔵して使うものでもありません。亜鉛は、体内のタンパク質に結合し、酵素や細胞の働きを支える「調整役」として働きます。

亜鉛って、体にたくさん入っているものではないんですね。

そう。量は少ないけど、関わる仕事が多い。だから「少ないからどうでもいい」ではなく、「少ない量で広く効いている」と見ると分かりやすいよ。
亜鉛の人体における生化学的な役割
体内の亜鉛は、主にZn2+というイオンの形でタンパク質と結びついて働きます。ざっくり言えば、亜鉛の仕事は次の3つに分けられます。
- 酵素の働きを助ける
- タンパク質の形を安定させる
- 細胞の増殖、免疫、味覚、粘膜などの機能を支える
酵素の補因子として働く
酵素は、体内の化学反応を進めるタンパク質です。食べ物を分解する、エネルギーを作る、不要なものを処理する、細胞の材料を作る。こうした反応は、ただ材料がそろっているだけではうまく進みません。
酵素には、反応が起こるための「くぼみ」や「反応の場」のような部分があります。そこに材料となる分子が入り、向きがそろい、化学反応が進みます。亜鉛は、その反応の場を安定させたり、材料をつかまえやすくしたり、酵素全体の形を保ったりします。こうした酵素の働きを助ける物質を、補因子と呼びます。

図では、中央の丸が亜鉛イオン、その周囲の大きな形が酵素を表しています。周囲から入ってくる小さな部品が、酵素の中で反応し、別の形になって出ていくイメージです。亜鉛そのものが燃料になるのではなく、反応が進みやすい場所を整える役です。
たとえば、亜鉛を必要とする酵素には、二酸化炭素の処理に関わる炭酸脱水酵素、タンパク質の分解に関わる酵素、酸化ストレスへの対応に関わる酵素などがあります。亜鉛は多数の酵素の働きに必要で、代謝、消化、抗酸化、タンパク質合成などに関わります[1,2]。
亜鉛フィンガー因子として遺伝子発現に関わる
亜鉛の生化学で有名なのが「亜鉛フィンガー」です。名前だけ聞くと少し変ですが、これは本当に指があるという意味ではありません。タンパク質の一部が、亜鉛イオンを中心にして折りたたまれ、DNAに触れやすい形になることから、指のような構造として説明されます。
DNAは、細胞がタンパク質を作るための設計図のようなものです。ただし、すべての設計図をいつも同じように使っているわけではありません。細胞は、必要な遺伝子を読み取り、不要な遺伝子はあまり使わないように調整しています。この「どの遺伝子を使うか」の調整に、DNAへ結合するタンパク質が関わります。

図では、右側のらせんがDNA、左側から伸びるタンパク質の構造がDNAに近づいています。中央の丸が亜鉛イオンのイメージです。亜鉛があることでタンパク質の形が安定し、DNAに結合しやすくなります。つまり亜鉛は、単に身体の材料として存在しているだけではなく、細胞が自分の働きを調整する場面にも関わっています。
細胞分裂、免疫、皮膚粘膜、味覚を支える
細胞が増える、傷が治る、粘膜が保たれる、免疫細胞が働く。こうした場面では、タンパク質合成やDNA合成が必要になります。亜鉛はそれらの過程を支えるため、不足すると皮膚、粘膜、免疫、成長、創傷治癒などに影響が出やすくなります[1,2]。
味覚との関係もこの延長線上で考えると分かりやすいです。味を感じるには、舌の味蕾や口腔内環境、唾液、神経、嗅覚などが関わります。亜鉛は味蕾の維持や細胞の入れ替わりに関係するため、味覚の話でよく登場します。ただし、味覚障害の原因がすべて亜鉛不足というわけではありません。

味覚だけじゃなくて、酵素や遺伝子発現まで関わるんですか。思ったより根本的ですね。

うん。だから亜鉛を「味覚の栄養素」とだけ覚えるともったいない。身体の細胞が普通に働くための、かなり基礎側のミネラルなんだ。
不足しても、多すぎても困る
亜鉛が不足すると、味覚低下、食欲低下、皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延、免疫機能の低下、成長障害などが問題になります[2,5]。ただし、これらの症状は亜鉛不足だけで起こるわけではありません。低栄養、炎症、薬剤、口腔乾燥、消化管疾患、腎疾患など、背景を合わせて見る必要があります。
一方で、亜鉛は「多ければ多いほどよい」ものでもありません。亜鉛を高用量で長く摂ると、銅の吸収が妨げられ、銅欠乏につながることがあります[1,5]。銅欠乏では貧血、白血球減少、神経症状などが問題になることがあります。
そのため、医療現場で亜鉛を扱うときは、血清亜鉛だけでなく、食事摂取量、炎症、アルブミン、銅、血算、症状、薬剤などを合わせて評価します。STが単独で判断する領域ではありませんが、「食べられない」「味がしない」「傷が治りにくい」といった気づきは多職種に共有する入口になります。
どんな食べ物に亜鉛が入っているのか
亜鉛は、魚介類、肉、卵、乳製品、大豆製品、種実類、全粒穀物などに含まれます。とくに有名なのは牡蠣です。文部科学省の食品成分データベースでは、養殖の生牡蠣100gあたり亜鉛14.0mgと示されています[4]。
ただし、食品を考えるときは「含有量が多いランキング」だけで見ると現実から離れます。牡蠣は亜鉛が多い代表食品ですが、毎日食べる前提にはしにくい食品です。実際の食支援では、肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などを、その人が食べられる形でどう組み合わせるかが重要です。

動物性食品の亜鉛は比較的利用しやすい一方、豆類や全粒穀物にはフィチン酸が含まれ、亜鉛の吸収を妨げることがあります[2]。ただ、これは「植物性食品が悪い」という話ではありません。豆、穀物、種実類にも亜鉛は含まれますし、発酵、浸水、加熱、動物性食品との組み合わせなどで食事全体として考えられます。
嚥下障害や高齢者の食支援では、食品名だけでなく、形態が重要です。牛肉がよいと言っても、硬くて食べられなければ意味がありません。肉や魚をやわらかく調理する、卵料理を使う、豆腐や納豆、きな粉、乳製品を取り入れるなど、摂取しやすい形に落とし込む必要があります。

どんなに栄養があっても、食べられないと意味がないですもんね。病棟だと、どうやって安全に摂取させるか、という視点も大切だと思います。

そうだね。一点補足すると、最近は栄養補助食品も充実しているから、上手く組み合わせて患者さんごとに適切な対応ができるとさらにいいね。
亜鉛を知ると、臨床の見え方も少し変わる
亜鉛は、周期表に載っている金属元素であり、建材や合金、電池、皮膚に使う製品などにも登場する身近な物質です。その一方で、人体の中では、酵素の反応を助け、タンパク質の形を安定させ、遺伝子発現や細胞の働きを支える必須微量元素でもあります。
ここまで理解しておくと、臨床で「亜鉛が低い」「味がしない」「食欲が落ちている」と聞いたときも、単にサプリメントの話としてではなく、細胞や全身状態の話として受け止めやすくなります。
もちろん、亜鉛だけで味覚低下や食欲低下を説明することはできません。口腔環境、薬剤、嗅覚、低栄養、炎症、全身疾患、嚥下機能などと一緒に見て初めて意味が出ます。ただ、「そもそも亜鉛がどんな物質で、体の中でどんな仕事をしているのか」を知っておくと、低亜鉛や亜鉛補充の話も少し立体的に見えてくるのではないでしょうか。
参考文献
- Maret W, Sandstead HH. Zinc requirements and the risks and benefits of zinc supplementation. J Trace Elem Med Biol. 2006;20(1):3-18. doi: 10.1016/j.jtemb.2006.01.006
- National Institutes of Health Office of Dietary Supplements. Zinc: Fact Sheet for Health Professionals. https://ods.od.nih.gov/factsheets/Zinc-HealthProfessional/
- 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
- 文部科学省. 食品成分データベース:魚介類/<貝類>/かき/養殖/生. https://fooddb.mext.go.jp/details/details.pl?ITEM_NO=10_10292_7
- 日本臨床栄養学会. 亜鉛欠乏症の診療指針2024. https://www.jscn.gr.jp/pdf/aen2024.pdf



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