認知症の患者さんの食事を見ていて、どう対応すればよいか迷った経験のある方は多いと思います。
口に入れたまま動かない。話しかけても反応が鈍い。かと思えば、急に勢いよくかき込んでしまう。こうした場面では、嚥下機能だけを評価しても、食事全体の危なさを捉えきれません。
認知症と嚥下障害の関係は以前から知られてきましたが、近年の研究でも、その頻度や転帰への影響があらためて報告されています。今回は、認知症のタイプによる違い、注意や覚醒が食事に及ぼす影響、現場でできる働きかけについて整理します。
認知症は誤嚥性肺炎のリスクと関係する
日本の介護施設入所高齢者9,930人を対象とした研究では、認知症は、直近の嚥下機能低下や脱水などとともに、誤嚥性肺炎に関連する独立した因子でした[1]。認知症があるだけで肺炎になるわけではありませんが、見過ごせない背景因子の一つです。
スペインの中間ケア病院に入院した認知症患者255人の研究では、口腔咽頭嚥下障害が85.9%に認められました[2]。重度の認知症を多く含む集団での数字なので、認知症のある方全体にそのまま当てはめることはできません。それでも、嚥下障害が珍しい合併症ではないことは分かります。
しかも問題になるのは、飲み込む瞬間だけではありません。食べ物に気づく、手を伸ばす、適量を口に入れる、よく噛むといった一連の過程にも、認知機能や注意、覚醒が関わっています。
認知症のタイプで、食事場面の困り方も変わる
「認知症がある」とひとまとめにされがちですが、食事や嚥下の問題は認知症のタイプによって現れ方が異なります[3]。
アルツハイマー型認知症では、比較的早い段階から食べ物への注意が続かない、食べ物を認識しにくい、口腔内での処理に時間がかかるといった問題がみられることがあります。進行すると、口腔期だけでなく咽頭期の嚥下にも問題が広がります。
前頭側頭型認知症では、嚥下運動そのものの障害より先に、食行動の変化が目立つことがあります。急いでかき込む、一口量が大きい、口に残っているのに次を入れるなど、脱抑制や常同行動が食事の危なさにつながります。
レビー小体型認知症では、パーキンソニズムに伴う口腔・咽頭運動の問題に加えて、注意や覚醒の変動が食事へ影響します。同じ人でも時間帯によって反応が違い、「昼は食べられたのに、夕方はぼんやりして進まない」といったことが起こります。

同じ「認知症」でも、見るところが違うんですね。診断名だけでは食事の様子までは分からない、ということですか?

そうだね。飲み込む動きだけでなく、覚醒の波や一口量、食べる速さまで含めて、その人の食事を見たほうがいい。
覚醒と注意が整わないと、いつもの方法が通じない
認知症のある方では、食事中にうとうとする、周囲の音に気を取られる、声をかけても食事へ戻れないといったことがあります。反対に、十分に覚醒していないまま機械的に口へ運び続けることもあります。
食べ物を認識して口へ運び、咀嚼して送り込むまでの過程には、認知や注意が大きく関わります。一方、嚥下には随意的な部分と反射的な部分があります。「指示が入りにくい」という話と「嚥下反射が起こらない」という話は同じではありませんが、食事全体としては互いに影響します。
とろみのない液体で誤嚥を認めた認知症またはパーキンソン病の患者を対象に、顎引き、ネクター状液(≒薄いトロミ)、ハチミツ状液(≒濃いトロミ)を比較した研究では、重度の認知症がある人ほど、いずれの方法でも誤嚥をその場で解消できる割合が低いという結果でした[4]。よく使われる方法でも、全員に同じように効果があるわけではありません。
「普段はできるから」「前回はむせなかったから」と考えるのではなく、そのときの覚醒、注意、一口量、食べる速度を含めて見直す必要があります。
精神賦活や認知面への働きかけが役立つ場面もある
認知症があるからといって、嚥下への介入がすべて無効になるわけではありません。2026年刊行のシステマティックレビューとメタ解析では、嚥下訓練、身体的介入、栄養的介入などを受けた群で、標準的なケアのみの群より嚥下機能が改善していました[5]。とくに軽度の嚥下障害や、4〜6週間の嚥下訓練で改善が大きい傾向が報告されています。
もちろん、認知症の重症度や体調によって、やることは変わります。それでも、食事前に少し会話をする、本人にとって分かりやすい声かけをする、周囲の刺激を減らすといった働きかけで、ぼんやりしていた人の反応が良くなり、食事が進むことは臨床で経験します。
こうした精神賦活や認知面への働きかけは、誤嚥を直接防ぐ方法として確立しているわけではありません。ただ、覚醒や注意が整うことで、その人が本来もっている食べる力を発揮しやすくなる場合はあります。嚥下訓練とは別物として切り離すのではなく、食事へ参加できる状態を整える工夫として考えるとよいでしょう。

声かけや環境調整も、ただ食事を促すだけではなく、食べられる状態をつくる意味があるんですね。

うん。訓練を始める前に、今その人が食事へ向かえる状態かを見る。それだけで反応が変わることもあるよ。
看護師やOTのかかわりが欠かせない理由
認知症のある方の食事は、評価室での短い観察だけでは分からないことが多くあります。日々の食事にかかわる看護師やケアスタッフは、時間帯による覚醒の差、食べる速さ、口腔内へのため込み、むせ、食後の声の変化などを継続して見ています。
アルツハイマー病患者93人を対象とした多施設RCTでは、看護師が所定の段階的嚥下訓練を4週間実施した群で、通常ケア群より嚥下機能、異常な食行動、日常生活機能、栄養状態が改善しました[6]。これは特定の訓練プログラムを検討した研究ですが、看護師のかかわりが観察だけに限られないことを示す結果です。
OTの視点も大切です。食器をうまく扱えない、動作の手順が分からない、周囲の刺激が多くて食事に集中できないといった問題は、嚥下機能だけを見ていても解決しません。食事動作、姿勢、食器、座席、周囲の音や人の動きまで含めて整えることで、食べ方が落ち着く人もいます。
介護施設入所者10,185人を対象とした研究では、嚥下障害は6か月死亡の独立した関連因子で、5kgを超える体重減少を伴う場合は死亡率がさらに高くなっていました[7]。食事場面の変化は、嚥下だけでなく、栄養や全身状態を見直すきっかけにもなります。
食べる場面を、嚥下機能だけで見ない
認知症のある方では、嚥下運動、注意、覚醒、食行動、食事動作、環境、栄養状態が重なり合っています。どれか一つだけ整えても、うまくいかないことがあります。
だからこそ、嚥下障害への対応には多職種のかかわりが必要です。食事中の小さな変化を拾う人、食べる動作や環境を整える人、嚥下機能を評価する人、栄養や全身状態を確認する人が、それぞれの情報を持ち寄ることで、初めてその人の食事全体が見えてきます。
認知症があると、教科書どおりの方法がそのまま通じないこともあります。一方で、覚醒しやすい時間を選ぶ、声のかけ方を変える、食べる環境を整えるといった工夫で、反応が変わることもあります。目の前の患者さんの食べ方を丁寧に見直すことが、非常に重要です。
ちなみに、認知症の患者さんについては嚥下障害だけではなく「そもそも食べてくれない」という問題に頭を悩ますことも多いです。
いわゆる認知症の拒食や食思低下は非常に重いテーマですので、いずれ別記事で検討しようと思っています。
参考文献
- Manabe T, Teramoto S, Tamiya N, Okochi J, Hizawa N. Risk Factors for Aspiration Pneumonia in Older Adults. PLoS One. 2015;10(10):e0140060. doi: 10.1371/journal.pone.0140060
- Espinosa-Val MC, Martín-Martínez A, Graupera M, Arias O, Elvira A, Cabré M, et al. Prevalence, Risk Factors, and Complications of Oropharyngeal Dysphagia in Older Patients with Dementia. Nutrients. 2020;12(3):863. doi: 10.3390/nu12030863
- Alagiakrishnan K, Bhanji RA, Kurian M. Evaluation and management of oropharyngeal dysphagia in different types of dementia: a systematic review. Arch Gerontol Geriatr. 2013;56(1):1-9. doi: 10.1016/j.archger.2012.04.011
- Logemann JA, Gensler G, Robbins J, Lindblad AS, Brandt D, Hind JA, et al. A randomized study of three interventions for aspiration of thin liquids in patients with dementia or Parkinson’s disease. J Speech Lang Hear Res. 2008;51(1):173-183. doi: 10.1044/1092-4388(2008/013)
- Tong L, Chen L, Xiao P, Zhang Y, Cao Q, Zhu W. Treatment of Dysphagia in Patients with Dementia: a Systematic Review and Meta-Analysis. Dysphagia. 2026;41(1):10-22. doi: 10.1007/s00455-025-10850-2
- Ye J, Wu C, Chen J, Wang H, Pan Y, Huang X, et al. Effectiveness of nurse-delivered stepwise swallowing training on dysphagia in patients with Alzheimer’s disease: A multi-center randomized controlled trial. Int J Nurs Stud. 2024;150:104649. doi: 10.1016/j.ijnurstu.2023.104649
- Wirth R, Pourhassan M, Streicher M, Hiesmayr M, Schindler K, Sieber CC, et al. The Impact of Dysphagia on Mortality of Nursing Home Residents: Results From the nutritionDay Project. J Am Med Dir Assoc. 2018;19(9):775-778. doi: 10.1016/j.jamda.2018.03.016



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