前回は、歯周病菌が「血行ルート」と「経口ルート」を通じて全身へ広がるしくみを整理しました。
前回までの記事はこちらです。


今回はその続きとして、歯周病菌や歯周病による慢性炎症が、具体的にどのような全身疾患と関係しているのかを見ていきます。
歯周病は「歯茎が腫れる病気」「歯が抜ける病気」として語られがちです。しかし臨床で重要なのは、その炎症が口腔内だけで完結しないという点です。歯周ポケットという慢性炎症の場から、細菌、毒素、OMV、炎症性サイトカインが持続的に放出されることで、肺、代謝、腸管、脳といった離れた臓器にも影響を及ぼす可能性があります。[1]
もちろん、歯周病だけで全身疾患のすべてを説明できるわけではありません。ただ、未診断・未評価の歯周病が背景にあると、臨床像の見え方が大きく変わることがあります。
誤嚥性肺炎:歯周病が与える肺への影響
STにとって最もイメージしやすいのは、歯周病と誤嚥性肺炎の関係だと思います。
誤嚥性肺炎というと、まず「飲み込みが悪くなって、食物や唾液が気管に入る」ことを考えます。もちろん誤嚥は重要なトリガーです。しかし、近年の考え方では、誤嚥性肺炎は単に嚥下機能低下だけで起こるものではなく、複数の条件が重なった結果として発症すると捉えるほうが自然です。[2,3]
特に重要なのは、次の3つです。
- 宿主の脆弱性:高齢、低栄養、免疫力低下、基礎疾患など
- 口腔内の細菌量:歯周病、プラーク、舌苔、義歯汚染など
- 誤嚥の発生:不顕性誤嚥を含む唾液や分泌物の気道流入
つまり、誤嚥があっても、口腔内の細菌量が少なく、気道クリアランスや肺の免疫が保たれていれば、必ず肺炎になるわけではありません。反対に、口腔内が歯周病菌のリザーバーになっている状態では、少量の不顕性誤嚥でも肺炎につながるリスクが高くなります。[2-4]

誤嚥性肺炎って、飲み込みの問題だけを見てしまいがちでした。

そうだね。でも実際には「何を誤嚥しているか」もすごく大事なんだ。清潔な唾液なのか、歯周病菌を大量に含んだ唾液なのかで、肺に入ったあとの意味が変わってくるよ。
さらに歯周病による炎症性サイトカインは、血流を介して肺の免疫環境にも影響します。肺胞には、侵入した細菌を処理する肺胞マクロファージが存在しますが、全身性の慢性炎症にさらされ続けると、その働きが乱れたり、いざという時の貪食・殺菌能が十分に発揮できなくなったりする可能性があります。
この視点を持つと、口腔ケアは単なる「清潔ケア」ではなく、誤嚥性肺炎の発症リスクを下げるための感染制御の一部として見えてきます。

糖尿病:歯周病と相互に悪化し合う代表例
歯周病と糖尿病は、双方向に悪化し合う関係としてよく知られています。[5,6]
まず、歯周病があると、歯周ポケットから炎症性サイトカインや細菌由来成分が持続的に血流へ入り込みます。これらは肝臓、脂肪組織、骨格筋などに作用し、インスリンの効きにくさ、いわゆるインスリン抵抗性に関与すると考えられています。
一方で、糖尿病によって高血糖状態が続くと、歯肉の免疫機能や創傷治癒が低下します。好中球やマクロファージの働きが落ち、歯周ポケット内の細菌を制御しにくくなります。さらに、AGEsと呼ばれる糖化産物が炎症反応を増幅させ、歯槽骨の破壊を進めやすくします。
つまり、歯周病が糖代謝を悪化させ、糖尿病が歯周病を悪化させるという、かなり厄介なループが成立します。[5,6]

血糖コントロールが悪い患者さんほど、口腔内の状態も悪くなりやすいということですか?

その通り。ただし逆も見ておきたいね。口腔内の慢性炎症が、血糖コントロールの足を引っ張っている可能性もあるんだよ。
臨床では、食事、運動、薬物療法に目が向きやすいですが、なかなか血糖コントロールが安定しない患者さんでは、歯周病や口腔内の炎症が見落とされていないかを確認する価値があります。
STが直接歯周治療を行うわけではありませんが、口腔内の観察、歯科受診につなげる視点、ケアチームへの情報共有は十分にできます。
大腸がん:消化管へ到達する口腔内細菌
少し意外に感じるかもしれませんが、歯周病菌と大腸がんの関連も注目されています。
ここでよく名前が挙がるのが、前回の記事でも登場した Fusobacterium nucleatum(Fn菌)です。Fn菌は口腔内に存在する細菌ですが、経口ルートで消化管へ到達し、大腸がん組織から検出されることが報告されています。[7,9]
Fn菌は、単に「たまたま腫瘍にいた菌」ではなく、腫瘍微小環境に関与する可能性が示唆されています。たとえば、大腸上皮細胞への接着、炎症性サイトカインの誘導、免疫細胞の働きの抑制、さらには化学療法への抵抗性との関連などが研究されています。[8,9]
もちろん、これを「歯周病が大腸がんを直接起こす」と単純化して言い切るのは危険です。がんは多因子疾患であり、遺伝的要因、生活習慣、腸内環境、炎症、免疫など多くの要素が絡みます。
ただ、口腔内の慢性炎症やディスバイオシスが、遠く離れた腸管環境にも影響しうるという視点は重要です。口腔ケアを「口の中だけの問題」として閉じてしまうと、このつながりを見落としてしまいます。

認知症:口腔と脳をつなぐ慢性炎症の視点
認知症と歯周病の関係も、近年注目されているテーマです。
従来は、認知症が進行してセルフケアが難しくなり、結果として口腔内が不衛生になり、歯周病が悪化するという流れで説明されることが多かったと思います。この方向性はもちろん重要です。
しかし最近は、それだけでなく、歯周病による慢性炎症や歯周病菌由来の物質が、認知症の病態に関与する可能性も検討されています。[10-13]
たとえば、Porphyromonas gingivalis(Pg菌)やその毒素であるジンジパイン、歯周病由来の炎症性サイトカイン、OMVなどが、血液脳関門や脳内の免疫細胞であるマイクログリアに影響する可能性が研究されています。[10-12]
脳は独立した臓器のように見えますが、全身の炎症状態から完全に切り離されているわけではありません。末梢の慢性炎症が続くと、脳内の免疫環境にも影響し、神経炎症を増幅させる可能性があります。

認知症があるから口腔ケアが難しくなる、という一方向だけではないんですね。

そう。もちろん因果関係は慎重に見る必要があるけど、口腔内の慢性炎症が脳に影響しうるという視点は、これからますます大事になると思うよ。
嚥下やコミュニケーションに関わるSTにとって、認知症の患者さんの口腔環境を見ることは、食事場面の安全性だけでなく、全身状態を捉えるうえでも意味を持ちます。
STが臨床で押さえておきたい視点
ここまで見ると、歯周病は単なる歯科疾患ではなく、全身の炎症負荷を高める慢性疾患として捉える必要があることが分かります。
STが臨床で特に意識したいのは、次のような場面です。
- 誤嚥リスクがある患者さんの口腔内が、歯周病やプラークで汚染されていないか
- 肺炎を繰り返す患者さんで、嚥下機能だけに原因を求めすぎていないか
- 糖尿病、認知症、低栄養、要介護状態がある患者さんの口腔評価が抜けていないか
- 「歯周病の記載がない」ことを「歯周病がない」と誤解していないか
カルテに歯周病の記載がない場合、それは本当に歯周病がないのではなく、「誰も評価していない」だけかもしれません。
歯周病は痛みが少なく、本人の訴えだけでは拾いにくい疾患です。未診断、未評価、未治療のまま背景に隠れていることは珍しくありません。だからこそ、口腔内を観察し、必要に応じて歯科につなぐ視点が大切になります。
まとめ
歯周病菌が引き起こす全身疾患への影響は、まだ研究途中の領域も多く、すべてを単純な因果関係として断定することはできません。しかし、少なくとも歯周病が全身の慢性炎症と関係し、誤嚥性肺炎、糖尿病、大腸がん、認知症などの病態と接点を持つことは、医療職として知っておく価値があります。[1-13]
口腔は、発声、構音、嚥下、食事の入り口であると同時に、全身の炎症や感染リスクを映す場所でもあります。
次回は、この流れを踏まえて、歯周病に対して臨床でどのように介入し、どのように多職種連携へつなげていくかを整理していきます。
参考文献
- Hajishengallis G. Periodontitis: from microbial immune subversion to systemic inflammation. Nat Rev Immunol. 2015;15(1):30-44. doi: https://doi.org/10.1038/nri3785
- Bansal M, Khatri M, Taneja V. Potential role of periodontal infection in respiratory diseases – a review. J Med Life. 2013;6(3):244-248.
- Scannapieco FA, Shay K. Oral health disparities in older adults: oral bacteria, inflammation, and aspiration pneumonia. Dent Clin North Am. 2014;58(4):771-782. doi: https://doi.org/10.1016/j.cden.2014.06.005
- Iinuma T, Arai Y, Abe Y, Takayama M, Fukumoto M, Fukui Y, et al. Denture wearing during sleep doubles the risk of pneumonia in the very elderly. J Dent Res. 2015;94(3 Suppl):28S-36S. doi: https://doi.org/10.1177/0022034514552493
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- Castellarin M, Warren RL, Freeman JD, Dreolini L, Krzywinski M, Strauss J, et al. Fusobacterium nucleatum infection is prevalent in human colorectal carcinoma. Genome Res. 2012;22(2):299-306. doi: https://doi.org/10.1101/gr.126516.111
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- Shang FM, Liu HL. Fusobacterium nucleatum and colorectal cancer: A review. World J Gastrointest Oncol. 2018;10(3):71-81. doi: https://doi.org/10.4251/wjgo.v10.i3.71
- Singhrao SK, Harding A, Poole S, Kesavalu L, Crean S. Porphyromonas gingivalis Periodontal Infection and Its Putative Links with Alzheimer’s Disease. Mediators Inflamm. 2015;2015:137357. doi: https://doi.org/10.1155/2015/137357
- Sarmiento-Ordóñez JM, Brito-Samaniego DR, Vásquez-Palacios AC, Pacheco-Quito EM. Association Between Porphyromonas gingivalis and Alzheimer’s Disease: A Comprehensive Review. Infect Drug Resist. 2025;18:2119-2136. doi: https://doi.org/10.2147/IDR.S491628
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- Leira Y, Domínguez C, Seoane J, Seoane-Romero J, Pías-Peleteiro JM, Takkouche B, et al. Is Periodontal Disease Associated with Alzheimer’s Disease? A Systematic Review with Meta-Analysis. Neuroepidemiology. 2017;48(1-2):21-31. doi: https://doi.org/10.1159/000458411



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