STが知っておきたい歯周病と全身疾患(4/4)病院における医科歯科連携の意義と実際

医科歯科連携のアイキャッチ画像 口腔・歯科

このシリーズでは、STが知っておきたい「歯周病と全身疾患」をテーマに、口腔の健康が全身にどう影響するかを掘り下げています。

前回までの記事では、歯周病がなぜ全身に波及するのか、そして歯周病菌がどのような経路で全身へ広がるのかをみてきました。今回は視点を変えて、「病院という現場」から考えます。口腔の問題に対して医療機関はどのように対応しているのか。制度としての医科歯科連携とは何か、そしてSTはこの連携のどこに位置するのかを整理します。

前回までの記事はこちらです。

STが知っておきたい歯周病と全身疾患(1/4)歯周病はなぜ全身に影響するのか?
「世界で最も蔓延している病気」をご存知でしょうか?がんでも、心疾患でも、糖尿病でもありません。実は、私たちの非常に身近にある「歯周病」が、世界で最も患者数が多い病気としてギネス世界記録に認定されています。「たかが歯茎の腫れでしょ?」 「毎日…
STが知っておきたい歯周病と全身疾患(2/4)歯周病菌はどうやって全身へ広がるのか?
前回は歯周病の基本と、慢性炎症が全身疾患の引き金になることを解説しました。今回はその続きとして、歯周病菌が実際にどのようなルートで全身へ波及していくのか、そのメカニズムを具体的に見ていきます。解説①:歯周病菌が全身へ広がる2つのルート歯周病…
STが知っておきたい歯周病と全身疾患(3/4)歯周病菌が引き起こす全身疾患例
前回は、歯周病菌が「血行ルート」と「経口ルート」を通じて全身へ広がるしくみを整理しました。前回までの記事はこちらです。今回はその続きとして、歯周病菌や歯周病による慢性炎症が、具体的にどのような全身疾患と関係しているのかを見ていきます。歯周病…

「歯科のない病院」という現実

医科歯科連携の必要性を語る前に、まず前提として押さえておきたい数字があります。厚生労働省の令和4年度医療施設(動態)調査[1]によると、歯科・口腔外科・小児歯科・矯正歯科のいずれかを標榜する病院は、全病院の約2割にすぎません。裏を返すと、約8割の一般病院には、院内に歯科系診療科がないということです。

この現実が意味するのは、多くの入院患者が「院内で歯科治療を受けられない環境」にいるということです。周術期の患者、脳卒中後のリハ病棟にいる患者、ICUで管理されている重症患者——こうした患者の口腔管理は、外部の歯科医師や歯科衛生士との連携なしには実現しません。

新人看護師
新人看護師

8割の病院に歯科がないんですか。それじゃあ、入院した患者さんの口腔ケアはどうやってするんですか?

ヨコ
ヨコ

病棟スタッフが行う基本的な口腔ケアとは別に、ちゃんとした歯科的な介入が必要な場面では、地域の歯科診療所や歯科医師会と連携する仕組みをつくるしかない。それが「医科歯科連携」の核心だよ。

なぜ今、口腔管理が注目されているのか——エビデンスの整理

周術期口腔機能管理の効果

医科歯科連携の中でもとりわけエビデンスが蓄積されているのが、手術前後の口腔管理です。がん手術・心臓血管外科手術など侵襲の大きい手術の前後に歯科が介入し、口腔内の感染巣除去・歯面清掃・口腔乾燥への対応を行うことで、術後の誤嚥性肺炎や感染性合併症の発症率が有意に低下することが複数の後ろ向き・前向き研究で示されています。

国内の観察研究では、周術期口腔機能管理を実施しなかった群の術後肺炎発症率が6.3%であったのに対し、実施群では1.8%まで低下したという報告があります。[2]また、口腔環境を良好に保つことで術後の発熱リスクや全身性炎症が抑えられ、経口摂取開始が早まることによる在院日数の短縮や医療費の削減という経済的なエビデンスも確立されつつあります。

誤嚥性肺炎予防と口腔ケア

STにとって特に関係が深いのが、誤嚥性肺炎の予防です。誤嚥性肺炎は単純に「食物や液体が気管に入る」から起きるわけではなく、口腔内の細菌量・常在菌叢の乱れ・唾液分泌量・気道粘膜の自浄能(クリアランス機構)といった複合的な要因が絡み合っています。

虚弱高齢者を対象とした系統的レビューでは、適切な口腔ヘルスケアが誤嚥性肺炎リスクを低減することが報告されています。[3] 歯周病原菌(グラム陰性嫌気性菌)が口腔内に大量に存在する状態は、気道への潜在的な感染源となるだけでなく、慢性的な口腔内炎症が気道粘膜の防御機能そのものを低下させることにつながります。[4]

誤嚥性肺炎の多因子的な背景については、こちらの記事も参考になります。

誤嚥性肺炎は「嚥下」だけの問題ではない?多角的なアプローチの重要性
医療・介護現場で最もよく遭遇する疾患の一つ、「誤嚥性肺炎」。 皆さんは学生時代、誤嚥性肺炎についてどのように習いましたか? おそらく「食べる機能が落ちる→むせる(誤嚥する)→肺炎になる」という流れをイメージする方が多いのではないでしょうか。…

回復期・高齢者医療——ADL・栄養・リハとの三位一体

近年の議論では、周術期だけでなく、脳血管疾患後の回復期、慢性期、高齢者入院全般における口腔管理の重要性が強調されるようになっています。中医協の資料では、回復期リハ病棟の高齢患者の約8割に何らかの口腔機能障害があり、歯科衛生士等の介入が咀嚼・嚥下・栄養状態・ADL/FIMといったアウトカムと関連することが整理されています。

口腔管理はもはや「歯の問題を扱う単独ケア」ではなく、食べる・栄養を入れる・リハビリを進める・肺炎を防ぐという入院医療全体の基盤として位置づけられ始めています。摂食嚥下リハビリを担うSTも、口腔・栄養・リハビリが連動するこの流れの一員として関わることになります。

糖尿病との関連——双方向性という重要な視点

医科歯科連携のもう一つの重要な柱が、糖尿病と歯周病の双方向的な関係です。歯周病は糖尿病のコントロールを悪化させ、逆に歯周病の治療がHbA1cの改善に寄与することが、複数のRCTおよびコクランレビューで示されています。[5] 糖尿病患者の口腔管理は、慢性疾患管理型の医科歯科連携における中核的な課題のひとつです。

ヨコ
ヨコ

周術期・誤嚥性肺炎・糖尿病・回復期のリハ——どれをとっても口腔管理が関わってくる。エビデンスが揃ってきたから、制度もそれを追いかけるように整備されてきたんだよ。

診療報酬改定が示す「制度の方向性」

こうしたエビデンスの蓄積を受けて、日本の診療報酬は段階的に医科歯科連携を後押しする方向で整備されてきました。主要な改定の流れを順に整理します。

2012年度——周術期口腔機能管理の新設

2012年度の改定で、周術期口腔機能管理計画策定料および管理料(Ⅰ〜Ⅲ)が新設されました。がん手術・臓器移植・心臓血管外科手術などを対象に、歯科が介入して術後肺炎や感染性合併症を減らすことが制度目的として明確化されました。この時点ですでに、主治医・看護師との情報共有がチーム医療として組み込まれた設計となっていました。

2014年度——「歯科のない病院」からの紹介を評価

2014年度改定では、歯科医療機関連携加算と周術期口腔機能管理後手術加算が追加されました。これは、歯科のない病院が外部の歯科診療所に依頼する行為そのものを評価するという意味で極めて重要な改定です。制度上は、この時点で「院内に歯科がなくても地域連携で対応する」ことが明確に前提化されたと言えます。

2018年度——「等」追加で対象を拡大

名称が「周術期口腔機能管理」から「周術期口腔機能管理」へ変更され、手術を伴わない患者(脳卒中後など)も含む形で対象が明確化されました。緊急手術後の早期依頼も算定可能となり、計画的な周術期管理だけでなく、急性期入院医療全体に対象が広がるシグナルとなりました。

2022年度——在宅・慢性疾患管理への拡充

2022年度改定では歯科医療機関連携加算の要件緩和が行われ、在宅患者においても歯科へつなぎやすくなりました。また、総合医療管理加算の対象疾患にHIV感染症が加わるなど、有病者歯科・慢性疾患管理の観点から連携の枠組みがさらに広がりました。

2024年度——ICU・リハ・栄養・口腔の一体化へ

2024年度は医科歯科連携の制度設計における大きな転換点となりました。集中治療室(ICU)での管理患者が周術期等口腔機能管理の対象に加わったほか、医科側の入院時情報連携加算の算定対象に歯科医師が追加されました。さらにリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算が新設され、口腔管理が「歯科に依頼する補助的業務」から「急性期病院の基本的な包括ケアの一部」へと位置づけ直されました。

2026年度——歯科のない病院に直接インセンティブを

2026年度(令和8年度)の診療報酬改定は、歯科を持たない病院にとってとりわけ大きな意味を持ちます。最大の変化は、病院側と歯科側の双方に経済的メリットをもたらす加算が同時に新設された点です。

病院側には「口腔管理連携加算(入院中1回・600点)」が設けられました。これは、歯科標榜のない医療機関が地域の歯科医療機関と連携して入院患者に歯科診療を提供した場合に算定できるものです。一方、往診に赴く歯科側には「医科連携訪問加算(500点)」が上乗せされます。これまで歯科のない病院にとって外部歯科を招く行為は、書類作成の手間だけがかかる不採算業務でした。この同時新設によって、病院と地域歯科の双方がwin-winとなる連携の導線が整備されたことになります。

また、2024年度に新設されたものの算定率が伸び悩んでいた「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」も大幅に見直されました。1日150点の「加算1」へのブラッシュアップに加え、入門編として「加算2(1日90点)」が新設され、リハビリ職の専従要件が大幅に緩和されました。この連携体制の枠組みは地域包括ケア病棟などにも拡大されており、外部歯科との連携体制を構築していない病院は、病棟全体の施設基準を維持しにくくなるリスクを背負う構造になっています。

なお、改定の詳細な点数や算定要件は今後の通知などで変更される場合があります。最新の情報は厚生労働省の令和8年度診療報酬改定についてのページで確認できます。

現場の実態——制度と実装のギャップ

制度の整備は着実に進んでいますが、実際の現場はどうでしょうか。日本歯科医師会の病院調査[6]によると、歯科標榜のない病院で入院患者に歯科医療が必要と判断した際に外部の訪問歯科診療を依頼している施設は80.2%でした。多くの病院が「必要なときには依頼する」という運用をしていることは分かります。しかし問題は、「誰が、何を見て、どのタイミングで依頼を判断するか」が標準化されているかどうかです。

同調査では、歯科のない病院で入院時に口腔情報を把握している施設は35.7%にとどまっています。6割以上の非歯科病院では、入院時のアセスメントに口腔の情報が組み込まれていません。これは、「口腔問題が起きてから歯科を呼ぶ」という受動的な運用がいまだ主流であることを示しています。

また、歯科のない病院すべてと100%連携が取れている郡市区歯科医師会は全体の6.7%にとどまるという報告もあります。地域として網羅的にカバーできている実態は限られており、地域差が非常に大きいのが現状です。

新人看護師
新人看護師

入院時に口腔を評価している病院が35%しかないって……制度は整ってきているのに、現場の実装がまだ追いついていないんですね。

ヨコ
ヨコ

エビデンスも制度も揃った。あとは病院として「誰が、どこで、どうやって実装するか」という問題だね。これは経営層や主治医、歯科医師が中心になって決めていくことだよ。

STはこの連携のどこに関わるのか

まず大前提として、医科歯科連携を実際につくり、動かしていく主体は、病院の経営層・主治医、そして歯科医師です。どの歯科医療機関と組むか、院内のどの部署が窓口になるか、連携体制の施設基準をどう満たすか——こうした判断は組織的な意思決定であり、一つの職種が旗を振って回せるものではありません。STが制度を設計したり、連携の仕組みそのものを運用したりする立場にあるわけではない、という点はおさえておきたいところです。

そのうえで、STにできることを考えてみます。STは摂食嚥下リハビリを担う中で、患者の口腔に日常的に接する職種のひとつです。舌の運動機能・口腔乾燥・義歯の適合状態・口腔衛生——これらはすべて嚥下効率や誤嚥リスクに直結する要素であり、歯科的な介入によって改善できる部分も少なくありません。「嚥下機能がなかなか改善しない」背景に口腔環境の問題が隠れていて、歯科の介入で状況が変わるケースもあります。

もちろん、口腔の問題に日々接しているのはSTだけではありません。病棟看護師も毎日の口腔ケアや食事介助を通じて、口腔内の変化に気づく機会を多くもっています。STは嚥下機能の視点から、看護師は日常ケアの視点から——それぞれの場面で気づいた口腔の問題を、抱え込まずに主治医や連携先の歯科へ共有すること。この「気づいて、つなぐ」動きを職種を越えて重ねていくことが、医科歯科連携を現場で機能させる土台になります。

裏を返せば、口腔管理を病棟全体の標準的な流れに組み込むには、STの努力だけでは限界があり、経営層・医師・歯科の主導と病院全体の理解が欠かせません。STとしては、目の前の患者を通じて連携の必要性を具体的に示していくことが、その後押しになっていくでしょう。

新人看護師
新人看護師

たしかに、口腔ケアをしていて「これは歯科に診てもらったほうがいいかも」と思うことはあります。そういうときに遠慮せず共有できる流れがあると安心ですね。

まとめ

本記事では、病院における医科歯科連携について、エビデンスと診療報酬制度の両面から整理しました。要点をまとめると次のとおりです。

  • 日本の約8割の病院は院内に歯科系診療科をもたず、口腔管理は外部との連携が前提となっている
  • 周術期の術後肺炎抑制・誤嚥性肺炎予防・糖尿病管理など、口腔管理のエビデンスは複数の領域にわたり蓄積されている
  • 2012年から2026年にかけての診療報酬改定は、一貫して医科歯科連携を後押しする方向に進み、2026年度は歯科のない病院に直接的なインセンティブが設けられた
  • 一方で、入院時の口腔情報把握は35.7%の施設にとどまっており、制度と現場の実装には依然としてギャップがある
  • 医科歯科連携を動かす主体は経営層・主治医・歯科医師であり、STは現場で口腔の問題に気づき、共有する一員として連携に関わる

参考文献

  1. 厚生労働省. 令和4年(2022)医療施設(動態)調査・病院報告の概況. 2023. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/22/dl/02sisetu04.pdf
  2. 梖原 稜, 山田慎一, 西牧史洋, 他. 肺癌術後肺炎に対する周術期口腔機能管理の有効性に関する後ろ向き観察研究. 信州医誌. 2018;66(4):249-256. https://s-igaku.umin.jp/DATA/66_04/66_04_03.pdf
  3. van der Maarel-Wierink CD, Vanobbergen JN, Bronkhorst EM, Schols JM, de Baat C. Oral health care and aspiration pneumonia in frail older people: a systematic literature review. Gerodontology. 2013;30(1):3-9. doi: 10.1111/j.1741-2358.2012.00637.x
  4. Scannapieco FA, Shay K. Oral health disparities in older adults: oral bacteria, inflammation, and aspiration pneumonia. Dent Clin North Am. 2014;58(4):771-782. doi: 10.1016/j.cden.2014.06.005
  5. Simpson TC, et al. Treatment of periodontitis for glycaemic control in people with diabetes mellitus. Cochrane Database Syst Rev. 2022;4(4):CD004714. doi: 10.1002/14651858.CD004714.pub4
  6. 日本歯科医師会. 病院における医科・歯科連携に関する調査の報告書. https://www.jda.or.jp/dentist/program/investigation-report.html

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