STが知っておきたい歯周病と全身疾患(2/4)歯周病菌はどうやって全身へ広がるのか?

押し寄せる様々な細菌やウイルスに怯え、両手を広げて防ごうとしている女性看護師のアイキャッチ画像 口腔・歯科

医療上の注意:本記事は医療・介護専門職向けの教育情報です。個別の診断、薬剤の休薬、禁食、嚥下食形態などは、主治医・歯科医師・担当専門職の判断に従ってください。

前回は歯周病の基本と、慢性炎症が全身疾患の引き金になることを解説しました。

STが知っておきたい歯周病と全身疾患(1/4)歯周病はなぜ全身に影響するのか?
歯周病は口の中だけの問題ではありません。慢性炎症や細菌叢の変化が全身疾患と関わる理由を、STにもわかりやすく解説します。

今回はその続きとして、歯周病菌やその関連物質がどのようなルートで全身へ影響しうるのか、そのメカニズムを具体的に見ていきます。

解説①:歯周病菌が全身へ影響しうる2つのルート

歯周病菌や炎症性物質が全身へ影響しうる道筋は、大きく「血行ルート」と「経口ルート」の2つに分けられます。

新人看護師
新人看護師

前回、炎症した歯茎の血管から菌が入り込むと聞きましたが、それが「血行ルート」ということですか?

ヨコ
ヨコ

そうそう、よく覚えてたね。今回はその「血行ルート」に加えて、もう一つの「経口ルート」についても詳しく見ていくよ。

血行ルート

前回も触れたように、歯周病が進行して歯周ポケットに慢性的な炎症が生じると、ブラッシングや咀嚼といった日常的な刺激でも出血しやすくなります。傷ついた歯肉の毛細血管から歯周病菌が血液中に入り、一過性の菌血症(transient bacteremia)として検出されることがあります[1]

出血しているからといってブラッシングをやめるのは逆効果です。歯茎からの出血は炎症のサインであり、原因となるプラークを取り除かなければ改善しません。

経口ルート

もう一つは、唾液に混じった大量の歯周病菌を飲み込むことで広がる「経口ルート」です。このルートは、喉の奥でさらに2つの道に分岐します。

一つ目は、食道を通って胃(消化器官)へ進むルートです。

そして二つ目は、本来なら食道へ行くべきものが誤って気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」によって、肺に到達するルートです。誤嚥の多くは自覚のない「不顕性誤嚥(silent aspiration)」として日常的に生じており、本人が気づかないまま繰り返されているケースも少なくありません[2]

口腔内の歯周病(P.G.菌、F.N.菌などとその毒素・酵素)から全身へ至る3つの侵入ルートを示した解説図。左の「血行性ルート(赤)」は歯肉出血から血液を介して全身の他の臓器や腸管へ巡る経路、中央の「経口(嚥下)ルート(黄)」は1日1〜1.5Lの唾液の嚥下により胃を経て腸管へ至る経路、右の「誤嚥(肺)ルート(青)」は誤嚥によって肺(肺炎)へ至る経路として描かれています。

ここで押さえておきたいのは、誤嚥という「気道への侵入」が単独で即座に肺炎を引き起こすわけではないという点です。加齢や疾患によって気道のクリアランス機能(異物を排出する防御システム)が低下している状態に、継続的に歯周病菌が流れ込むことで、最終的に防御機構が破綻し、誤嚥性肺炎などの深刻な事態へと繋がっていきます。

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嚥下評価で大きな問題がなくても肺炎や微熱を繰り返す背景に、気道の排出機構MCCがあります。嚥下の先の防御機構を整理します。

解説②:細菌本体と「OMV」の働き

歯周病の原因となるグラム陰性菌は、「OMV(外膜小胞)」と呼ばれる小さな袋状の物質を放出します。前回登場したPg菌やFn菌も、このOMVを産生することが知られています[3]

新人看護師
新人看護師

細菌そのものが悪さをするのはわかりますが、OMVというのは具体的に何をするんですか?

ヨコ
ヨコ

前は細菌の副産物にすぎないと考えられていたんだけど、実は有害物質やタンパク質分解酵素を詰め込んだカプセルとして、体内に拡散しうることが示唆されているんだよ。

病原因子を含むOMVは、「血行ルート」と「経口ルート」の両方を通じて、細菌本体とは別の形で全身へ影響しうる経路として研究されています。

さらに厄介なのが、OMVの大きさです。非常に小さなナノサイズであるため、細菌本体が入り込めないような生体バリアへ影響を及ぼす可能性が研究されています。例えば、脳を異物から守る『血液脳関門(BBB)』との関連がin vitro実験などで示唆されています[4]。ただし、ヒトでの明確な証明はまだ限定的であり、現在も研究が続いている段階です。

細菌そのものが届かないような組織にまで、歯周病菌由来の物質が影響を与える可能性があるという点は、近年の研究が示す注目すべき側面です。

歯周病菌(P. gingivalis)から外膜小胞(OMV)が放出される仕組みの解説図。左側にはサイズ約0.5〜2μmの歯周病菌、右側には菌から放出されたサイズ約50〜250nmのOMV(外膜小胞)が描かれており、OMVの内部には毒素などの有害物質が含まれていることが示されています。

解説③:胃酸というバリアを超えるしくみ

経口ルートで胃に到達した細菌や異物は、通常であれば強力な胃酸によって死滅・分解されるはずです。では、なぜ歯周病菌やOMVは生き残ることがあるのでしょうか。

すべての菌が生き残るわけではありませんが、一部は防御機構を回避しながら消化管へ到達する可能性が示唆されています。まずOMV自体が、胃酸環境下でも一定の安定性を保つ可能性が研究されています。また、前回も登場した Fusobacterium nucleatum(Fn菌)についても、胃の酸性環境への適応機構が研究されています[5]

OMVFn菌(生菌)
膜構造により胃酸環境でも一定の安定性を保つ可能性集団で守り、環境を中和する
頑丈な「脂質の膜」の構造その密で、胃酸や消化酵素による分解をブロックする。・アンモニアを出して周囲の酸を弱める
・仲間とバリア(バイオフィルム)を作る
小さすぎるため隠れる必要がない剥がれ落ちた人の細胞内に隠れて胃を通過する(細胞内潜伏)。
内部の病原因子を腸管まで届ける可能性がある。一部の生菌が腸管へ到達・定着する可能性がある。
膜の脂質組成を変えて、胃酸そのものを遮断する。

さらに重要なのが、服薬状況を含む個人の状態です。H2ブロッカーやPPI(プロトンポンプ阻害薬)といった「胃酸を減らす薬」を日常的に服用している方は少なくありません。こうした薬剤は、腸内細菌叢のバランスにも影響を与えることが知られています[6]。加齢や疾患によって胃酸分泌が低下している状態では、口腔内の菌が消化管へ到達するリスクはさらに高まります。

新人看護師
新人看護師

薬を飲んでいるだけでも、リスクが変わってくるんですね。

ヨコ
ヨコ

そうなんだよ。だからこそ、口腔内の細菌量を減らしておくことが、全身への影響を小さくするうえで現実的な意味を持ってくるんだ。

結果として、口腔内に歯周病関連菌が多い状態では、それらの一部が消化管へ到達する可能性があり、腸内細菌叢の変化や炎症への関与が示唆されています[7]

口腔を起点に、歯周病菌由来のOMV(外膜小胞)とFn菌(フゾバクテリウム)がそれぞれ異なる機構で胃酸バリアを突破し、腸管へ到達・定着するまでの経路を示した図解。OMVは脂質二重層の堅牢さで胃酸を物理的に回避し、Fn菌はバイオフィルム・細胞内潜伏・アンモニア産生・膜の酸耐性化を組み合わせて生き延びる。加齢・疾患・制酸剤服用により胃酸防御が低下するほど、これらの通過が容易になることも示している。

まとめ

今回解説したように、歯周病菌やその関連物質は「血行ルート」と「経口ルート」の2つの経路を通じて、全身へ影響しうる可能性が示されています。細菌本体だけでなく、OMVという形での関与も研究されています。

新人看護師
新人看護師

口の中を清潔に保つことが、全身を守ることにも繋がるんですね。

ヨコ
ヨコ

その通り。口腔ケアは、全身の炎症負荷を減らすうえで重要な役割を持っているんだよ。

次回は、このように全身との関連が示唆される菌やOMVが、どのような疾患と関係しているのかを見ていきます。特に誤嚥性肺炎をはじめ、認知症、糖尿病、大腸がんといった全身疾患と歯周病との関連について、さらに詳しく解説します。

参考文献

  1. Tomás I, Diz P, Tobías A, Scully C, Donos N. Periodontal health status and bacteraemia from daily oral activities: systematic review/meta-analysis. J Clin Periodontol. 2012 Mar;39(3):213-228. doi: 10.1111/j.1600-051X.2011.01784.x.
  2. Ebihara T. Comprehensive Approaches to Aspiration Pneumonia and Dysphagia in the Elderly on the Disease Time-Axis. J Clin Med. 2022 Sep 10;11(18):5323. doi: 10.3390/jcm11185323.
  3. Wu Z, Long W, Yin Y, Tan B, Liu C, Li H, et al. Outer membrane vesicles of Porphyromonas gingivalis: recent advances in pathogenicity and associated mechanisms. Front Microbiol. 2025;16:1555868. doi: 10.3389/fmicb.2025.1555868.
  4. Pritchard AB, Fabian Z, Lawrence CL, Morton G, Crean S, Alder JE. An Investigation into the Effects of Outer Membrane Vesicles and Lipopolysaccharide of Porphyromonas gingivalis on Blood-Brain Barrier Integrity, Permeability, and Disruption of Scaffolding Proteins in a Human in vitro Model. J Alzheimers Dis. 2022;86(1):343-364. doi: 10.3233/JAD-215054.
  5. Li X, Zhang S, Sheng H, Zhen Y, Wu B, Li Z, et al. Oral Fusobacterium nucleatum resists the acidic pH of the stomach due to membrane erucic acid synthesized via enoyl-CoA hydratase-related protein FnFabM. J Oral Microbiol. 2025;17(1):2453964. doi: 10.1080/20002297.2025.2453964.
  6. Xiao X, Zhang X, Wang J, Liu Y, Yan H, Xing X, et al. Proton pump inhibitors alter gut microbiota by promoting oral microbiota translocation: a prospective interventional study. Gut. 2024 Jun 6;73(7):1098-1109. doi: 10.1136/gutjnl-2023-330883.
  7. Atarashi K, Suda W, Luo C, Kawaguchi T, Motoo I, Narushima S, et al. Ectopic colonization of oral bacteria in the intestine drives T(H)1 cell induction and inflammation. Science. 2017 Oct 20;358(6361):359-365. doi: 10.1126/science.aan4526.

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